換気と咳の話

・換気

<換気について>
 換気とは、該当する空間(部屋)の空気を入れ替える事です。換気にはいろいろな方法がありますが、 その空間の大きさや形状・用途などにより最も適した方法が取られます。給排気の形態別には、1種から 3種の換気と、風力換気、密度差換気(自然換気)があるとされます。

 

<換気回数>
 空間の中の空気が1時間に何回入れ替わるのかが換気回数です。換気が良いほど感染症などの罹患のリス クが小さくなります。建築基準法で定められている換気回数は0.5回以上ですが、通常のオフィスでは3~4 回が必要とされます。厚労省の基準は30CMH/人で、役所の基準には整合性がありません。設計者は 個々に 判断するしかないでしょう。

 

<風力換気>
 風力換気は通風換気と言われ、窓などの開口がある場合、風力で室内外の空気が入れ替わる事を指します。 風力換気で得られる風量は気象条件や開口の開き具合などで大きく変化します。注意しなければならないのは 、自然風は一般に間 欠風であり、その風向や風速が常に変化している事です。こう言った風は外部 から建物 内への貫通能力が弱く、期待したほどの換気効果が得られない事が頻繁にあります。定常風で計算した結果を そのまま信用するのは危険です。

 

<密度差換気>
 密度差換気は温度差換気とも呼ばれ、空間内外の温度差などにより起こる換気です。吹き抜けやボイドなど で、特に中間季においてよく採られる換気手法ですが、上手く設計すれば機械換気より大きな風量が得られる 場合もあります。エネルギーコストが掛からず人に優しい換気が出来るのも特長です。浮力計算を 間違えている結果、密度差換気を扱えない流体ソフトウェアが多いのは注意したいところです。

 

<エアコンからの気流>
 一般に壁掛け型や天井カセットなどのエアコンには換気能力はありません。これから向かう夏もそうですが、 冬の間も我々は換気のない空間で過ごしていた事になります。気を付けないといけないのは、エアコンの吹出し は部屋の空気を撹拌混合するという事です。設定風量や吹出し角度に注意しないと、部屋の空気を不用意にかき 混ぜる事になります。

 

<窓を開けての換気>
 これからの季節は、室内の気温を維持するためにエアコンを使わざるを得ませんが、部屋の空気の清浄度を保 つために定期的な換気が必要です。日本建築学会や空気調和衛生工学会によると、30分に一度、数分間の換気が 必要とされます。しかし部屋の窓などの個数や位置の違い、外部の風向や風速により、風力換気による開口の方 法はそれぞれ異なります。高層ビルでは上層階では窓ははめ殺しで、窓を開ける事は出来ません。今までとは違う発想で換気を考えないと、オフィスを有効に活用出来ないと言う事です。

 

<換気効率指標(SVE)>
 せっかく上手く空調機器を設定して換気を取れても、部屋の中に空気の淀みがあっては、そこに汚染物質が滞 留して空間の清浄度は保てません。しかしシミュレーションで淀み点を予測する事が出来ます。東大名誉教授加 藤信介先生の提案された「換気効率指標(SVE)」がそれで、空気齢(SVE3)と空気余命(SVE6)を算出する事に より、空間の淀み点を適確に把握できます。換気効率指標による解析は、WindPerfectに実装されています。

 

・咳のシミュレーション

 人間が咳や呼吸をする際の流れはどうなっているのでしょう? ここでは最新の知見に基づき、移流拡散を伴う熱と濃度のシミュレーションを試みました。 本シミュレーションで留意しているのは次の点です。


<気道から口蓋にかけてのエルボー形状を再現する>

 あちこちのサイトで掲載されている咳や呼吸のCFDシミュレーションは、口を吹出し口として風速条件を設定しているものばかりです。 しかし、それでは口から出た気流の挙動は、実際とは大きく異なります。  人体では肺から気流が噴出し気道と口蓋を経てから外へ噴出するからです。 気道と口蓋で形成するエルボー形状のため、気流は複雑な流れを形成してから外部へ吹き出します。 単にノズル様の吹出し口から出た 単純な噴流とは、自ずから風速分布や温度・濃度分布は違ってきます。 本シミュレーションではそれを再現しています。


<体温で人体周りに発生している上昇気流を再現する>

 人体の周りには体温により数10cm/secの上昇流(プリューム熱対流)が形成されています。 この熱対流によって、人は周辺の汚染された空気を吸う事から守られています。 人は、自分の身体に沿って上昇してきた、下方の比 較的清浄な空気を吸っているのです。 但し、この上昇流を崩すような気流や、咳などの激しい呼気に出会った場合にはこの防御は効果が薄くなります。 本解析では、咳や呼吸などで、どの程度そのような現象が起こるのか検証してみました。


<既存の文献から最も確からしい風速条件・熱条件を設定する。>

 咳や呼吸のシーケンスを再現するのは簡単ではありません。 咳も呼吸も定常流れではなく時間とともに刻々変化する非定常流れだからです。 咳を例にとれば、初速はおよそ22m/sec。 これが0,18秒間続いて、その後は流速が ゼロになります。 呼気の温度や濃度も、非定常で移流拡散する様子を捉える必要があります。 ここではLESを使っています。


<人体周りの熱対流>

 一人の大人は約50kcal/時の熱量(顕熱)を発生していて、その熱によって人体周りには上昇流が常に起きています。  その風速は約0.3m/secで、顔の周りに気流のバリヤーを築いていると言えます。


  • 人体周りの熱対流 断面風速分布

  • 断面温度分布

  • 表面温度分布

<咳のシミュレーション - エルボー有り、マスク無し>

 咳の初速は約22m/secと言われます。 このくらいの速度があれば人体周りも上昇流を軽々と突き破り、呼気はかなり遠くにまで飛びます。 下の図に見るように、人体の前方1m程度と言ったところです。


  • 0.1秒後

  • 0.2秒後

  • 0.3秒後

  • 0.1秒後

  • 0.2秒後

  • 0.3秒後

<咳のシミュレーション - エルボー無し、マスク無し>

 気道と口蓋で形成するエルボー形状を再現せず、単に口元に風速境界条件を与えると、エルボーを通過する事による複雑な気流も制限できず、咳は単純な噴流になります。  しかしこれでは呼気が遠くまで飛び過ぎて実態と合いません。  エルボーを考慮した先の結果と比べてみて下さい。

  • 0.1秒後

  • 0.2秒後

  • 0.3秒後

<咳のシミュレーション - マスク装着>

 マスクがあると咳は前に飛ばず、マスクの隙間から上方と側方に抜けます。 顔の鼻から額の辺りと頬から顎にかけては咳の飛沫が付着しやすい事になります。 この辺りを触ったら必ず手洗いしましょう。

  • マスク装着 解析モデル

  • 断面濃度分布+表面分布 0.1秒後

  • 0.2秒後

<呼吸のシミュレーション - マスク無し>

 普通の呼吸は1分間に15回程度です。 この間に呼気と給気が起こりそれぞれ2秒くらいずつです。 呼気の初速は発話中で約2.2m/secで、 人体周りの上昇流に干渉されるオーダーです。 そのためこの場合は呼気はほとんど遠くに飛ばず、せいぜい人体の前方50~60cmの範囲に留ま ります(下図参照)。 先日国立感染症研究所が発表した「濃厚接触」の新しい定義のうち、” 患者との距離:「手で触れることのできる距離(目安1メートル)」”に合致します。


  • 12秒後

  • 16秒後

  • 20秒後

  • 12秒後

  • 16秒後

  • 20秒後

いろいろな咳と呼吸の形態に合わせて、人がどのような換気環境に居るのかも再現する必要があります。 今回は換気なしの条件での解析ですが、典型的な換気システムとの組み合わせでのシミュレーションも、順次お目に掛ける予定です。 気流の実態を知って頂いて、それが新型コロナ感染防止に少しでも 繋がればと願っています。

 

  • ■アニメーション

     

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