特別版 新型コロナウィルスの感染対策として有効な室内換気とは何か

1.はじめに
 2020年の新春以降、新型コロナウィルス感染が世界的に猛威を振るっています。新型コロナウィルス「COVID-19」は、 主として気道感染すなわち呼吸器系に感染が生じるもので、接触感染の他、飛沫感染、飛沫核感染(エアロゾル感染と 同じ意味で使われています)で、人々の間に感染伝播するとされています。航空機の発達により世界的に人の往来が 活発になった現在では、島国日本を世界的な感染伝播の例外としてくれません。日本政府は、感染症対策に関する専 門家(主として医学者で、公衆衛生に関する工学者は含まれません)の協力を要請しました。感染症の専門家の分析か ら、人々は「三密」を避けた行動をすべきと言っています。3つの「密」がそろう場所が、1名の感染者から複数の 人々に感染させるいわゆる「クラスター感染」の発生のリスクが高い場所であり、こうした場所を避けることが感 染リスクを避けると分析しています。具体的には(1)換気の悪い「密」閉空間、(2)多数が集まる「密」集場所、 (3)間近で会話や発声をする「密」接場面を避けること、としています。

2.接触感染と飛沫感染
 換気の話に入る前に、少し解説が必要です。人の皮膚のバリヤー能力は大変高いことが知られています。細菌や ウィルスは人の皮膚を透過して人の体内に入ることはほとんどありません。もちろん傷があれば別です。傷口があ れば皮膚のバリヤー能力は期待できません。皮膚の傷口と同様、人の粘膜にはこのようなバリヤー能力はあまりな く、粘膜を通して体内に入るようです。ウィルスなどが、目や鼻、口腔などの粘膜に付着するとウィルスの体内へ の侵入を許してしまいます。手に付着したウィルスは、人の粘膜に触れない限り、人を発病させることはほとんど ありません。ただ、人は目や鼻、口などを自分の掌で度々触ります。筆者も研究室の大学院生を対象に調べたこと がありますが、多くの人が1時間に数十回、目や鼻口を手で拭います。この際、手にウィルスがついていれば、結局、 目鼻口の粘膜からウィルスが体内に取り込まれます。手洗い励行が奨励される所以です。

 人は口腔内で唾液を大量に分泌しています。1日1.5リットル程度とも言われます。食事以外の時も昼夜を問わず 分泌されていて、のどや鼻などの口腔を潤し、胃に流れ込んでいます。気道感染により気道に大量のウィルスがあ れば、人の唾液もまたウィルスを大量に含むことになります。大声でなくても人が発話するとき、発話の息ととも に唾液は、体外に放散されます。咳やくしゃみであれば、気道内の分泌液とともに大量の唾液が、体外に放散され ます。こうして放散された分泌液にウィルスが混入されていれば、大量のウィルスが分泌液とともに体外に放散さ れることになります。筆者も過去、どの程度の唾液が体外に放散されるか、調べたことがあります。マスクをつけ て咳をしてもらい重量変化を調べて、マスク重量が増えた分が放出された唾液と仮定しました。マスクに捕捉され た唾液は、絶えず蒸発しますので誤差が多い検討にはなりますが、およその量は捉えられると思います。人により 大きなばらつきがありますが、1回の咳で、平均10mg弱の唾液が体外に放散されました。発話の際の唾液の放散量 に関しても、同じくマスクによる捕捉法で検討しましたが、言語や声の大きさ、そのほかの要因でバラツキが多く、 必ずしも信頼できるとは言い難いですが、日本語の本を普通の声量で200字/1分の速度で20分間読み上げ、 1mg程度(重量変化を測定する天秤の測定誤差程度)の結果を得ました。しかし興奮して「口角泡を飛ばす」喋りであ れば、20分も続ければ、1回の咳以上の唾液を体外に放出するのではないかと想像します。

 ウィルスの混入した人の分泌液(主に唾液)が体外に放散された時、飛沫となって空中を飛行して、机や対面する人 の顔や衣服の表面などに付着します。付着した分泌液のほとんどは水分ですので、やがて蒸発しますが、ウィルスな ど分泌液に混入していたものは、洗い流されない限りいつまでもその表面に付着しており、その量が減ることもほと んどありません。よく知られていると思いますが、人の掌は摩擦を確保するため絶えず汗により湿気ています。掌が ウィルスなどの付着した表面に接触すれば、濡れ雑巾で掃除するように掌に大量のウィルスが付着することになり、 目鼻口に触れば、大量のウィルスが人の体内に入ることになります。これは接触感染や飛沫感染の過程の一つをモデ ル化して説明するものですが、物体表面に付着したウィルスは、室内の空気の流れなどでは洗い流されず、ウィルス が活性を失って感染の力を無くすまで、付着した時と同じ量のウィルスが保持されて、人の体内へ取り込まれるのを 待つことになります。インフルエンザウィルスは、感染力をなくすまでの時間は一般的な室内環境で1日以下、数時 間といわれていますが、コロナウィルスは、数日の単位との報告があり、なかなか感染力を失わないようです。

 お気づきになられたと思いますが、接触感染や飛沫感染が主たる感染経路である場合は、換気が感染予防に果たす 役割はそれほど大きくありません。

3.飛沫核感染(エアロゾル)感染と空気感染
 新型コロナウィルス「COVID-19」に関しては感染症の専門家の分析から、「三密」を避けた行動をすべきと言われています。 これは、日本が世界に誇る詳細な疫学調査から判明したものとも言われています。日本で新型コロナウィルス感染が、まだ初期 段階にあり、感染ルートを詳細に追跡できた際、1人の感染者が他の誰をも感染させない例が数多く見られたのに対し、少数です が1人の感染者が複数、5人も6人も感染させる例が、観察されたというのです。1人の感染者が他の誰をも感染させない場合は、 感染はその人で終わり感染が拡大することはありません。しかし、1人が複数の人を感染させる場合は、感染がネズミ算的に増大 します。この感染者が他に感染させなかったか、あるいは複数の人に感染させたかは、感染者の免疫や健康、疾病状態の多様性で は説明がつかないというわけです。そうした複数の感染者を同時に発生させた場所の特徴が、(1)換気の悪い「密」閉空間であり、 (2)多数が集まる「密」集場所であり、(3)間近で会話や発声をする「密」接場面であったというのです。このような「三密」の 条件を一部または全部満たす場所に新型コロナウィルス「COVID-19」の感染者が現れると多くの感染者が生じるいわゆる「クラスタ ー感染」が生じているというのです。

 「三密」のうち、(2)多数が集まる「密」集場所での感染はどういう原因で起こると考えるのが合理的でしょうか。第一に考えら れるのは、人と人の距離が近い。ということだと思われます。密集場所は多数の感染者がいる可能性があるので、まだ感染していない 被感染者に感染が生じやすいという状況もあり得るとは思います。しかしより現実的には密集場所に1人の感染者がいたときに、その 周囲に存在するまだ感染していない被感染者は、感染者との距離が近いので感染リスクが高くなるというのが、一般的な解釈だと思い ます。これは、感染者がガス状の汚染物質を周囲に放散しており、このガス状の汚染物質を濃い濃度で呼吸吸引すると感染すると言っ ているとも解釈できます。

 大気汚染、海洋汚染を考えても、空気や水などの流れのある所に汚染源があると、汚染源近くは、汚染質濃度は高く、汚染源から離れ れば、希釈されて低くなります。密集していると接触の機会も増えるかもしれません。しかし、感染者と被感染者は、よほど興奮する状 況でない限り、直接的な接触は考えづらい気がします。やはり感染者により汚染された空気を被感染者が呼吸により体内に吸入するとい う状況が、もっともありそうに思えます。密集を避けるということは、感染者により感染者周囲の空気はウィルスで汚染されている可能 性があり、距離が近ければその汚染濃度は高く、感染するリスクが高くなるということを意味しています。

 感染者により汚染された空気を被感染者が呼吸により体内に吸入して感染が広がるものを空気感染と言います。代表的な空気感染は、 肺結核や麻疹などが知られています。肺結核などは空気中に浮遊する結核菌1つを吸入するだけで発病する可能性があると言われていま す。人は1時間当たり約0.6立米の空気を呼吸で吸入します。結核菌が呼吸空気1立米あたり、1個でもあれば、1時間程度、そこに滞在してい ると感染する可能性があるわけです。大気や室内空気には驚くほどたくさんの浮遊粉塵が浮遊しています。汚染源がなく綺麗と言われて いる大気中でも1立米あたり数百万個の浮遊微粒子があると言われています。室内は外気より浮遊粉塵濃度が高い場合が多いことが観測によ り知られています。呼吸により1時間当たり数百万個の浮遊微粒子を体内に入れていますが、その中に1個の結核菌があれば、発病する 可能性があるといっています。

 飛沫核感染(エアロゾル感染)は、空気感染に類似していますが、かなり大量の病原体を吸入して生じる、すなわち大量の病原体を含む 十分濃い病原体濃度の空気を吸入することで生じる感染と考えられています。感染者がどの程度の病原体を会話や咳などで体外に排出し ているかには大きなばらつきがあると思われますが、感染者の近く、あまり希釈されていない十分濃い病原体濃度の空気を吸入しなけれ ば感染には至らないと思われます。インフルエンザウィルスなどでは感染するのに、百万個単位のウィルスを吸入する必要があると言わ れているようです。感染者に近接し、長い時間、呼吸空気を共有しないと感染が生じないことになります。これに対して接触感染では、 接触ルートが確保されてしまうと空気中のルートでの希釈の過程がない分、大量の病原体を体内に入れることが比較的容易で、感染が広 がります。インフルエンザウィルスによる感染は、主に接触感染や飛沫感染によるもので、飛沫核感染(エアロゾル感染)は、あまり生じ ないと考えられているようです。

 飛沫核感染(エアロゾル感染)では病原体はどのようなルートを経て感染者から被感染者に伝達されるのでしょうか。呼吸を介して被感 染者に伝達されることは空気感染と同じです。ウィルスなどの病原体が口や鼻から吐出される呼気に粘膜から直接混入するということは 発塵のメカニズムから考えてもありそうにありません。病原体の中でもウィルスは直径1μ以下の微粉体です。様々な固体表面に付着しや すく、また分泌液など液中に混濁しますが、そこから直接空中に飛び出すことはまずありません。ウィルスなどの微粉末を空気中に混濁 させるには、それを混濁させた溶液をアトマイザー(ネブライザーともいわれています)などで噴霧し、10μ程度以下のエアロゾルとして 空中に浮遊させるのが一般的適です。10μ程度の水分が主成分のエアロゾルは、相対湿度にもよりますが、湿度が低ければ数秒程度のわ ずかな時間で水分は蒸発し、ウィルスなどの固体成分だけの微粉末となって空気中を漂います。近年、大気汚染で有名なPM2.5(2.5μ以下 の固相や液相の微粒子)が長く空気中に漂っているように、2.5μ以下になった微粒子は、空気と一緒に運動し、空気から分離しません。人 の発話による呼気や咳やくしゃみは、まさにこの方法によって病原体を含むエアロゾルが生成されます。口腔内の唾液がアトマイザーの ように噴霧されて、エアロゾル化します。

 「密」集を避けるという意味は、存在するかもしれない感染者が病原体であるウィルスをエアロゾルとして空気中に放散しており、感 染者に近接するほど、その濃度が高く、これを呼吸により吸入すると感染リスクが高くなるので、これを避けるべきと言っているのだと 思います。感染者から距離を置けば、室内の空気流れ(換気)により離れれば離れるほど希釈されてエアロゾル濃度(病原体濃度)は低 下しますので、対応して感染リスクは低減されます。

 「三密」のうち、(3)の間近で会話や発声をする「密」接場面を避けるというのは、(2)の多数が集まる「密」集場所を避けるとい うものと大きく関連しています。人の発話による呼気には、人の唾液のエアロゾルが多く含まれますが、感染者の会話場面があれば、ま た特に感染者と対面して会話すればウィルスの混入した空気を呼吸により吸気することになってしまいます。しかし間近での会話や発声は 、唾液のエアロゾルだけではなく、唾液のもっと大きな数十μ以上の飛沫も発生させます。「口角泡を飛ばす」喋りであればもっとです 。飛沫が大きければ、その慣性力も大きく、弾丸のように飛行して対面する人の顔や衣服に付着します。また、重力の影響も大きくなり 、飛沫は、落下して、机やテーブルなどの物体表面に付着します。物体表面に付着した飛沫は空気の流れにより希釈されることもなく、 そのまま付着面にとどまり続けます。間近で会話や発声をする「密」接場面は、感染者が一人でもいれば、他の人の感染リスクは高まります。

4.飛沫核感染(エアロゾル感染)予防のための換気
 さて、いよいよ本題の換気です。「三密」のうち、(1)換気の悪い「密」閉空間を避けるのが、新型コロナウイルス「COVID-19」の感 染防止に重要という意義を考えます。換気が感染予防に重要である、換気の性状が感染予防への感度が高いということは、①換気された室 内、②感染源となる感染者、③感染経路は、主に空気感染もしくは飛沫核感染(エアロゾル感染)であること、が条件になります。①換気さ れる室内の条件は様々ですが、換気の性状は、(i)換気される室内の形状と換気に有効な給気口と排気口の位置や給気口の性能、(ii)換気量 が重要になります。②の感染源となる感染者に関しては、(i)病原体発生の強度(感染者の人数)と(ii)室内の位置が重要です。さらには被感 染者の位置も重要です。感染者と被感染者が密接しているか、あるいは適度な距離を保っているかが重要になるわけです(三密の(2)の密集 が係わります)。③の感染経路は、換気(室内の空気流動)により病原体の空気濃度が希釈されること及び室外に排出される過程が重要である ことが前提になり、空気感染、飛沫核感染(エアロゾル感染)が対象となります。新型コロナウィルス「COVID-19」は、ウイルスが付着した手 で鼻や目や口を触ることによる接触感染と、咳やくしゃみによる飛沫感染に加えて「閉鎖された環境で長時間、高濃度のウイルスの粒子を吸 った場合」のエアロゾル感染(飛沫核感染)もあるものとされ、感染予防に換気の果たす役割もあるものとされています。

 日本政府の新型コロナウィルス厚生労働省対策本部では、「換気の悪い密閉空間」を改善するため、多数の人が利用する商業施設等におい てどのような換気を行えば良いのかについて、「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法を取りまとめています(厚生労働省の ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf参照)。その中ではビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に 関する法律)における空気環境の調整に関する基準に適合していれば、必要換気量(一人あたり毎時30m3=CO2濃度:1000 ppm以下)を満足さ せるもので、「換気が悪い空間」には当てはまらないと考えられていると述べています。

 必要換気量(一人あたり毎時30m3)は、建築の関連分野ではよく知られた基準であり、この換気量が確保されば、室内で、人が絶えず放散 させている体臭などをそれほど他の人が気にしないまで希釈され、また室内の揮発性化学物質空気汚染の発生源対策が十分、取られているな ら、良好な空気の質(空気質と言っています)が確保されるとされています。新型コロナウィルス「COVID-19」対策としても、まずこの環境が確 保されていることが重要とされています。たとえが悪いかもしれませんが、人の体臭が気にならないほど換気により体臭が希釈されていれば、 感染者がコロナウイルス「COVID-19」を含むエアロゾルを放散させていても、同様に感染に至らないレベルまでそのエアロゾル濃度は希釈され ていると考えているわけです。換気による希釈は、発生源の強度が同じであれば、換気量に比例して進みます。2倍の換気量では汚染物質濃度は 1/2になります。新型コロナウイルス「COVID-19」の実際事例で考えれば、オフィスなどの室内に一日7時間、感染者1名と同室していても、非感 染者が呼吸で吸引し体内に入れるウイルス量は、感染に至らない量であろうと考えているわけです。

 感染者が室内に複数名いれば、換気されていても病原体を含むエアロゾル濃度も比例して複数倍になることになります。感染者が室内に何人も いることは、人口10万人当たりの感染者数が1000人程度(1/100の確率、日本全体で同時に100万人感染者いるような状況)でもあまりないことと 考えられるので、室内の感染者は1名のみと仮定することは、それほど無茶なことではないように思えます。感染者1名の室内に同室者が1名(合わ せて2名)でも感染リスクは低いというのであれば、多人数の室内で換気量がビル管理法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)が確保 されていれば、感染リスクは感染者1名で汚染発生量(病原性エアロゾル発生量)は一定でも換気量は被感染者の人数に合わせて多くなり、汚染濃 度(病原性エアロゾル濃度)はより低くなるというのが、一般的な解釈になるように思われます。

 換気に関して、換気量だけを問題にするのであれば、上記のように考える限り、換気はそれほど複雑な問題にはなりません。しかし、換気の問題 を、①換気される室内の条件である(i)換気される室内の形状と換気に有効な給気口と排気口の位置や給気口の性能、②の感染源となる感染者に関し ては、(ii)室内の位置と被感染者の位置も問題にすると、ことは簡単ではなくなります。建築設備士や室内換気に関する高度な知識を持つ技術者が 必要になります。感染者を診察する被感染者である医師や看護士の感染防護を換気から考える際は、ビル管理法(建築物における衛生的環境の確保 に関する法律)で要求される換気量が確保されていれば、感染リスクは低いなどと言っていることはできません。関係する人数は少ないかもしれま せんが「三密」のうちの(2)の「密」集場所を避けるが守られません。また、診察・看護では、感染者との会話によるコミュニケーションが必要にな るでしょうし、感染者が咳やくしゃみをすることも考えられますから、(3)の間近で会話や発声をする“密”接場面を避けるということが業務上、基 本的にできません。換気の方法が、単に換気量を確保するということだけでなく、換気や底を流れる室内空気流の性状、感染者と被感染者の位置関係 が重要になります。こうした問題は、感染者を収容する病室などでも生じますし、高齢者施設など、介護現場など、あらゆる場所で、人が近接してサ ービスを提供する場面で多く見られると思います。

5.室内の汚染質濃度(病原性エアロゾル濃度)の流体シミュレーション解析(CFD解析)の必要性
 人が近接してサービスを提供する場面、例えば、感染者を診察する被感染者である医師や看護士の防護を換気から考える際は、室内の汚染質濃度 (病原性エアロゾル濃度)の流体シミュレーション解析(CFD解析)が必須となります。換気量の多寡はあまり問題になりません。感染者もしくは感 染を想定される人から放出される病原性のエアロゾル濃度が、被感染者であるサービスを提供する人、例えば、医師や看護士の周囲で十分に安全とな る低い濃度に希釈されていることを流体シミュレーション解析(CFD解析)で確認する必要が生じます。もちろん実験的に確認することもできますが、 流体シミュレーション解析は、実験的検討よりはるかに安価に迅速にこれを行うことができます。

 もう15年以上も過去になりますが、類似のコロナウィルス感染であるSARSが流行した際、筆者もこうした解析を行い、論文として数多く報告したこ とがあります。その際、特に注意が必要なことは、エアロゾル放散源であり、エアロゾルをまた吸入する、人の呼吸を流体シミュレーションで考慮す ることも大事ですが、人の代謝による発熱も考慮することが極めて大事です。人は代謝により100W程度の発熱しており、人の周りには対応して上昇気 流が生じています。この上昇気流は数10cm/s程度になり、人の周りでは病原性エアロゾル輸送に大きな影響を与えます。呼吸する空気に、この病原性 エアロゾルがどの程度含まれるかは、この人体周辺の上昇気流がかなり大きな影響を与えます。感染者と医師、看護士の関係でいえば、室内空調など による空気の微妙な流れが、感染者からの病原性エアロゾルの輸送に大きな影響を与え、被感染者である医師や看護士の呼吸による吸入空気の病原性 エアロゾル濃度に大きな影響を与えます。被感染者である医師や看護士は、一般的には呼吸による感染防止のためN95の医療者用マスクにより、病原性 エアロゾルの吸入を防止しますが、そもそも適切な換気と気流制御により、そうした人の呼吸空気の病原性エアロゾル濃度が低くなるよう制御すること は、医師や看護士などの被感染者の感染リスク低減に大きく貢献します。医療現場などの特殊な環境ではなく、近接してサービスを行う場においては、 医療現場ほど厳密な感染防止策がとられない故、より一層の注意が必要になります。

 「三密」のうち、(1)換気の悪い「密」閉空間を避けるということで、室内の換気に関しては、換気の量だけの問題に帰着させてはいけません。 換気の質も問題になります。そのような室を問題にするとき、室内の形状や、換気の方式、給気口の性能、病原性エアロゾルを放出する感染者と、 これに曝露される非感染者の位置、それらの人々の発熱状態など、様々な要因を考慮しなければなりません。これらは、個別性が高く、一般論で論 じることは大変難しい課題です。個別性の高い問題に対応するには、これに対応可能な計算機シミュレーションが唯一の検討手法となります。



シュリーレン法で可視化した発熱する筆者の周りの熱上昇流(鼻から吐出される 呼気も可視化されています)

早期に新型コロナウィルス「COVID-19」の感染拡大が終息し、穏やかな日常が取り戻されることを祈念して筆をおきます。