第三十二回 日射解析とその適用

 筆者は日射・日照に関しては学生時代から大変興味をもっていました。 建築と太陽(日射・日照)の関係は極めて多彩で筆者もT 建設時代は日射を考慮した温熱環境以外にソーラーボイド、PV発電システム、自然採光装置、太陽追尾装置を用いた採光システム等のテーマに直接・間接的にかかわりました。(ちなみにソーラーボイドはボイド内に日射を入射させボイド内を高温にすることにより浮力を生じさせ通風を促進させるパッシブシステムです。)それらの中で最も注力したのはやはり(これらすべての基本とも言える)日射解析技術の開発でした。

 本稿ではT建設時代に行った日射プログラム開発とその適用事例についてお話します。 入社数年後、筆者らは独自の日射解析プログラム開発に着手しました。当時はこのような日射専用解析プログラムは数少なく、完成後はT 建設内の研究所(当時)や設計で大きな注目を集めました。このプログラム(ここではProgramSと表記します)については論文も数多く発表し、バージョンも進化し現在でもT 建設の環境解析のコアプログラムの一つとなっています。

 本プログラムの開発のきっかけは当時都市内の建築や地物の日射受熱量を細かく予測するニーズが増大してきたため、建築や都市の3次元モデルを元に、直達日射、天空日射、その拡散反射を計算する日射(短波)解析専用ソフト開発の必要性を強く感じたことにあります。本プログラムの特徴の一つは天空とみなした半球を151個の微小領域に分割しそれぞれの天空日射量を詳細に配慮した解析が可能ということでした。これは当時入社数年後の気象が得意なU 君のアイデアによるものでした。スタート時は穏やかなものでしたが、その後案件ごとに解析機能のリクエストが増えそのたびに機能追加が行われていきました。例えば短波だけでなく長波解析も追加、熱伝導解析との連動、鏡面反射の追加、いくつかのCFDソルバーとの連動、MRT,PMVの算出や表現等が機能追加されていきその後数十年が経過しています。

 このプログラム(システム)は数多くの屋内外温熱環境問題やヒートアイランド解析等のプロジェクトに用いられました。振り返れば独自開発ということで、やりたい放題の機能開発と言った感がありました。

 ところでこのProgramSには影にかくれた?ある一つの狙いがありました。それは非定常解析への適用です。非定常と言っても数分、数時間だけではなく数か月から1年も視野に入れたものです。日射がそもそも非定常現象であるためシステム全体をあらゆる非定常解析に対応させるのはマッチングが良いとも考えていました。

 この屋外温熱環境解析の現状を改めてみてみると、通常ではある1時刻の日射量計算をベースに環境評価します。その1時刻として例えば夏季ではピーク時をとるべきか平均時の方が良いかなどについて悩むこともあります。何れにしても1時刻での結果を環境評価値として代表させるのはいかがなものか?と考えることもたびたびあります。かといって1時刻での解析レベルの詳細解析を年間に「べた」で展開すると8760倍の計算量になります。これではコスパが全く合いません。

 従ってこのような日射を含めた温熱環境評価に関する年間計算は現在でもほとんど行われていないというのが現状のようです。

 しかし例えば、ビル風は評価システムを色々工夫して年間で評価します。ビル風評価にならって日射温熱環境も年間評価や季節評価ができれば評価結果の価値は大きく向上すると思われます。建築・都市空間に関して年間を通して快適となる工夫を建築・都市計画に加えることが出来ればよりサステナブルな環境形成が期待できます。

 プログラムSではこのような展開ももくろんで開発されました。その際、時間軸を伸ばす分他の何かを犠牲?にしないと実用上使い物になりません。そこで環境評価の他の要素(気流・気温・湿度等)等の簡略化の工夫を行いながら一部そのような解析を行いました。しかし、残念ながら現在に至るまでほとんどこの機能は使用されていないようです。それは何故か?一言でいうと「時期尚早」ということです。解析手法やデータベース、世の中のニーズ等様々な環境がそろわないと何事も進展しにくいということのようです。 特にプログラム側の機能からすれば「簡易化部分のシステム化」が必要そうです。いずれにしろ当初もくろんだ非定常機能の適用が広く行われるようになるのはもう少し先のようです。

 それまでにプログラムシステムのバージョンアップやその他の環境整備が期待されます。