第二十八回 データーセンター解析

 筆者がT建設時代に関与した特殊&生産施設としてクリーンルーム以外にもう一つデータセンターがあります。データセンターは、サーバーやネットワーク機器等のICT機器を設置・管理する専用施設であり通常のオフィスビルとは使用目的やスペックが全く異なります。データセンターはDX(デジタルトランスフォーメーション)時代の象徴とも言われ、高い機能性は勿論のこと地震、落雷、停電、セキュリティ等への安全性が強く求められています。データセンターは大量の電力を消費し、大量の熱を放出するという意味で地球温暖化対策が特に必要な建築としても認識されています。その原因の大元となるサーバーは近年小型化・高密度化されており、データセンター内のラックあたりの消費電力と発熱量は大幅に増大する傾向にあります。

 一般にデータセンター内は多数のラックが縦横に整然と並べられておりており、その中の個々のラック内にはICT機器がこれまた整然と設置されています。

 基本的にICT機器からの発熱は必然ですが、その熱を除去しないと機器の停止や故障につながってしまうため、その熱の効率的除去が重要になります。ICT機器は前面から冷気を吸い込んで冷却を行い、後面から発熱空気を排出というパターンが基本となります。そこで、データセンターでは通常ICT機器の前面同士と、後面同士を向かい合わせるようにラックを配置します。前面同士の空間は空調による冷気が供給される「クールアイル」と呼ばれ、背面同士の空間は排熱空気が集まるので「ホットアイル」と呼ばれこれらを空間・熱分離することが設計の基本となります。しかし、ホットアイル、クールアイルを設定したつもりでも実際はそううまく分離しきれるわけではなく、局所的混合がいたるところで起こります。つまり一般にデータセンターでは、「悪い部分(熱の混合)の場所探し」と「その原因(吹き出し・吸い込み位置等)となる犯人捜し」が必要になります。最も避けるべきは排熱空気がクールアイル側に回ってしまうことで、その場合ICT機器の性能低下や故障を誘発させてしまいます。

 このようなサーバー室内の気流や熱挙動の解明にはCFD解析が必須となります。

 筆者は10数年前、あるデータセンターのサーバー室のCFD解析を行なったことがあります。当時より空調方式には様々な考え方がありましたが、本事例では、床からサーバーラックを目指して冷気を送り込む「床吹出」方式でした。(近年建設コストなどの面から床吹き出しの採用は減少しているようですが)。通常のオフィスでは一室一様の温熱環境を目指しますが、データセンターではそうはいきません。クリアーな空間・熱分離が必要です。ラック配置や空調吹き出し位置や空調方式、キャッピング(冷たい吸気と温かい排熱をキャップして物理的に分離)の有無の組み合わせを考慮するとその組み合わせは多数あります。特にサーバー負荷が偏在した場合は状況が大きく変化する場合もあります。検討が煩雑で複雑になると予知した筆者らは本解析にVR技術を採用しました。これは管理者の立場を考え実寸表示のため各アイルの幅やラック高さ、メンテナンスのしやすさ等建築的要因も合わせて仮想体験することが有効であると考えたこともあります。CFDにおいてはVRは通常ポスト処理(結果の可視化)に用いられますが、本件ではプリ処理にもVRを適用しました。VR上の任意のサーバーをピックすればその発熱量の表示やCFD境界条件の設定値や変更値が大画面上でリアルタイムに表示され関係者全員がそれを確認します。又ポスト的にも効果的に「犯人捜し」を行うため空調気流や各サーバーの排熱点全てから流線を順次発生させ細部にわたる状況の確認を行い、何ヶ所かに隠れていた犯人を発見することが出来ました。

 数多くの案件でVR技術を用いましたが、CFDのプリ処理にまでVRを用いたのは後にも先にも本事例だけでした。(調子に乗って同データセンターの免振のVR化も合わせて行い好評を博しました。)

 データセンターはサーバー室の空調方式として空冷以外に、水冷(液冷)方式、外気冷房、フリークーリングの採用、さらには近年サーバー室全体を冷却するのではなくサーバーをまるごと液体に浸して冷却する液浸システムも開発されています。またデータセンター建築全体としての地球温暖化対策技術としてもデータセンターの排熱利用、更には再生可能エネルギー利用もあわせて検討することが増えてきました。

 本分野でも時代の進展に合わせて技術はどんどん進化しているようです。