第13回 ヒートアイランド解析

 筆者は最近SDGsに関連してサステナブル建築・都市について大学で講義する機会が増えてきました。サステナブルな建築・都市には最近注目されている未来型都市(スマートシティやスーパーシティ)の展開も視野に入っています。このような未来型都市においても重要な環境問題のひとつとしてヒートアインド問題が引き続きテーマアップされています。大学でこのヒートアイランドについて講義すると地球温暖化現象と混同している学生を毎年見受けます。いうまでもなく両者の「発生メカニズム」は全く異なります。(相互影響を及ぼすことはありますが)

 筆者がヒートアイランドという用語を知ったのは大学時代、恩師のO教授による「熱くなる大都市(NHKブックス)」という書籍を手にして読んだことからです。それ以降、この問題については大変興味を持ち続けてきました。そこで今回のコラムではこの「ヒートアイランド問題と解析」について述べたいと思います。

 一般にヒートアイランド現象を言葉で説明することはそれほど難しくありません。大雑把に言えば都市が郊外に比べコンクリート被覆されているため日射や多くの人工排熱(ビルからの排熱&交通排熱)が都市空間内にたまりやすい。建物群の密集化により風が通りにくい、緑化や水面が少ないため気温が低下しにくい等、が主要因です。従って基本的対策はコンクリート被覆を緑化等に置き換え、風通しをよくして、人工排熱を低減させればよいということになります。しかし、これを詳細に解析するとなると一般に大変困難であると言わざるを得ません。

 このヒートアイランド現象は本来広域気象スケール~街区スケール~建物スケールまで連続した熱移動現象です。これらの各スケールの現象を一つのモデルですべて解析するのは一般に不可能であるため、従来ではこれらを各スケールごとに分割して解析し結果を接続するという手法が用いられてきました。筆者も「都市温熱環境シミュレータの開発(JSTで採択、予算5000万)」というテーマでシステム構築を行ったことがあります。これは気象系スケール(数Km)と都市&街区&建築スケール(数m)、を各々解析しマルチグリッドで結果を接続するというシステムです。近年ではコンピュータ能力も発展し、地球スケールから建物スケールまで連続して(スケール分割なしで)解析できる手法も開発されています。また最近の都市レベルのヒートアイランド解析では広域気象スケールの解析は行わず気象データベースを用いることも多いようです。

 上述の「解析が一般に困難」というのはこれらの解析手法の選択に加え、ヒートアイランド現象の要因が多岐にわたることから派生する様々な問題です。やや話が細かくなりますが、例えば日射(直達、天空、反射)、長波放射、空調排熱や車排熱等の排熱分布、様々な建物・地物(建物・芝生・ガラス)等の熱物性と放射物性、樹木や水面の蒸発効率パラメータ、等多数の設定が必要となります。これらをモデル化して広域の解析モデル内に正確に設定すること自体も一般に至難の業です。つまり、ヒートアイランド解析では全てを再現することは不可能と割り切り、解析目的に応じて主要因候補を見出す「目利き力」、更には得たい結果の要求精度を考慮してモデル化する「バランス力」が最も重要と言えます。

 ヒートアイランド解析にはもう一つ問題があります。それは評価方法です。例えばビル風問題では評価尺度があるため、良し悪しや対策の程度等が判断できます。しかしヒートアイランド解析では解析結果は気流や温度、放射分布として出力されますが、最終的な絶対評価ができません。この問題を解決する一つの手段としてCASBEE―HI(キャスビー・ヒートアイランド)の適用があります。詳細は割愛しますが、この手法は敷地内外で温熱感指標SET*を算出し該当敷地のヒートアイランド現象を評価(ランキング)するものです。最近では一般に屋外の温熱環境指標としてSET*に代わりWBGT(湿球黒球温度)を用いることが増えてきました。WBGTは(Wet Bulb Globe Temperature)の略で最近よく用いられる熱中症指標の一つです。これらの指標はCFD解析で詳細に算出することが可能です。

 いずれにしろ、これらのヒートアイランド解析技術が一層進展することにより未来の都市環境もより豊かなものになって行くことを強く期待したいと思います。