第35回 BIMという言葉はもう古い?

 英国には、「UK BIM Alliance」という組織がありました。これは、2016年の英国政府の政策である「Construction Strategy 2016」において定められた「BIM Level 2 mandate(実施義務)」を、業界全体で実装できるようにするために設立された、非営利のアライアンス(連盟)です。「BIM Level」という言葉は、日本でもよく聞く言葉です。


BIM成熟度レベル(PAS1192-2 図1より)



 実は、この「レベル2」というのは、PAS1192シリーズに基づく、設計・施工における情報マネジメントの実践を指しています。日本ではBIMとは、BIMソフトウェアそのもの、あるいはBIMソフトウェアで作成したBIMモデルの活用方法のことだと誤解されがちですが、英国では、設計・施工および運用における情報マネジメント(Information Management:IM)を実現することを目的として、「BIM Level 2 mandate(実施義務)」が定められていました。

 このBIM成熟度レベルの下段に記載されているBS1192:2007は、共通データ環境(CDE)に関する規定を示しています。また、PAS1192-2(CAPEX)は設計・施工段階における情報マネジメント、PAS1192-3(OPEX)は運用段階における情報マネジメント、そしてBS1192-4は、設計・施工と運用をつなぐ情報交換手法としてのCOBieについて示しています。

 PAS1192-2におけるCAPEXとは、設計・施工段階を「建物という資産を建設・取得するための投資」と捉える考え方です。一方、PAS1192-3におけるOPEXとは、運用段階を「建物という資産を使い続けるための費用」と捉える考え方から来ています。このような背景を理解せずに、日本では「BIM成熟度レベル」という言葉だけが独り歩きし、本来の意味が十分に理解されていないケースが多く見られます。

 ところが、英国においても、当時は日本と同様の誤解が少なからず存在していました。そこで「UK BIM Alliance」は、2022年に「nima」という組織へと名称を変更します。「nima」という名称は、ギリシャ語由来の「糸」を意味しており、設計・施工・運用というプロセスの中心にある「情報の糸」を象徴しています。

 この名称変更には、「UK BIM Alliance」という名称に含まれていた「BIM」という言葉を、あえて外すという明確な意図がありました。BIMという言葉が、どうしてもBIMソフトウェアやBIMモデルそのものを指す言葉として誤解されてしまうのであれば、いっそその言葉を使わないことで、本来伝えたかった意図(すなわち情報マネジメントの重要性)を正しく理解してもらおうとしたのだと思われます。


nimaのホームページ



 こうした活動の中で、nimaが関与してきた取り組みの一つである「UK BIM Framework」も、その後「IMI Framework」へと名称を変更しました。「UK BIM Framework」は、英国におけるBIM実践の指針として、ISO 19650に関する各種ガイダンスを公開するなど、非常に重要な役割を果たしてきました。これが「IMI Framework」、すなわち Information Management Initiative(情報マネジメント・イニシアティブ)へと名称変更されたことにも、「BIM」という言葉を意図的に外すという共通の思想があったのだと考えられます。

 これは、BIMを捨ててIM(情報マネジメント)に切り替えた、という意味ではありません。BIMを、BIMソフトウェアやBIMモデルの活用にとどめたままでは、英国政府が目指してきた大きな成果には到達できないと考え、設計・施工・運用のプロセス全体における情報マネジメントへと、思考を導くための取り組みであったと言えるでしょう。BIMソフトウェアやBIMモデルそのものを否定するのではなく、それらを情報マネジメントへと昇華させようとする意図があったのだと思います。

 さて、英国政府が2016年に定めた「BIM Level 2 mandate(実施義務)」は、その後どうなったのでしょうか。現在の英国政府の政策は、2021年に策定された「Transforming Infrastructure Performance: Roadmap to 2030(TIP2030)」です。この政策では、「BIM Level 2 mandate」という名称は使われず、Annex B において「Information Management Mandate(情報マネジメント実施義務)」という形に変わっています。ここでは、ISO 19650に従った情報マネジメントの実践が、明確に義務として規定されています。つまり、英国ではすでに、従来の「BIM成熟度レベル」という概念は使われていないのです。

 また、ISO 19650においては、「BIM成熟度レベル」という言葉自体が用いられていません。代わりに、「情報マネジメントの成熟度の段階(stages of maturity of information management)」という表現が使われており、レベルではなくステージとして成熟度を捉えています。

 このように、世界はBIMを超えて、IM(情報マネジメント)へと移行しつつあり、そのための方法論として位置付けられているのがISO 19650だと言えます。日本は、まだその段階に至っていないのが現状です。

 最後に、nimaという名称について触れておきたいと思います。この言葉の中心に「IM(情報マネジメント)」が含まれているのも、非常に象徴的で興味深い点です。


nimaのロゴマーク



 ちなみに、私の会社名は「BIMプロセスイノベーション」ですが、もしかするとこの会社名の「BIM」という言葉自体が、すでに時代遅れになりつつあるのかもしれません。ただ、「IMプロセスイノベーション」では少し呼びにくいため、会社名については、しばらくこのままにしておこうと思っています。