第34回 オタクが世界を変える

 今年のゴールデンウィークに、高知に行き、高知県立牧野植物園に行きました。NHKの朝ドラ「らんまん」の主人公である槙野万太郎のモデルになった牧野富太郎さんを讃えるため、1958年に高知市・五台山に設立された総合植物園です。広大な敷地の植物園ですが、そこに、牧野富太郎さんの直筆図譜・遺品・書籍など博士の生涯と業績が詳しく展示された牧野富太郎記念館があります。

 牧野富太郎さんは、日本の植物分類学の草分け的存在であり、「日本植物学の父」と称される人物です。そして生涯は、“植物オタク”を極めた結果、学問と文化を動かした偉人とも言えるものです。牧野富太郎さんは94歳でなくなりましたが、88歳で理学博士号を取得し、亡くなる晩年まで、植物漬けの毎日であったと記録されています。最後の言葉とされているのが、「わしは草木の精じゃ。草木とともに生き、草木とともに死ぬ」というぐらい、植物オタクだったのでしょうね。


牧野富太郎記念館より



 NHKの朝ドラでも描かれていた、「植物への愛と探究心に満ちた理想的なオタク学者」、という姿を牧野富太郎記念館で改めて確認して、この「愛と探求心」が日本の植物学を変えたのだと思いました。

 私は、自称ですが、BIM Evangelist(エバンジェリスト)と名刺に入れています。 Evangelistとは、情熱的な伝道者であり、高度な専門知識やコミュニケーション力、そして良いモノやアイデアをわかりやすく、楽しく広め、コミュニティと企業の橋渡しをするプロフェッショナルです。ですが、本当は、私は、BIMオタクだと思っています。BIMオタクの特徴は、下記だそうです。これを見てドキッとしました。まさに、その通りかもしれませんね。

① マニアックなツール活用法に精通
② 標準化・国際規格・ISO19650などへの深い知識
③ 「なぜそうなっているか?」を語りたがる
④ 人に教えたくてしかたない(講演・SNS・記事で発信)
⑤ 職業よりも「信念」が先にある

 BIM Evangelistや、BIMオタクを名乗る以上、そこに愛と情熱、そして探求心がなければなりません。私が探求しているのは、海外、特に英国のBIMの取り組みと、BIMに関連する国際規格です。特にISO19650の情報マネジメントについては強い関心を持っています。それらを読み解き、日本での設計施工・運用のプロセスに、実践的に適応させて、業界を変えてゆくことが、私の使命だと思っています。

 最近では、今年(2025年)の1月に発行されたISO19650-6を読み解くことが、一つの課題になっています。ISO19650-6は安全衛生情報です。これは、ISO19650-2やISO19650-3などの情報マネジメントに、安全衛生というリスクマネジメントを組み込むというものです。ただ、このISO19650-6を理解するためには、日本の労働安全衛生法や、ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)なども、ある程度理解する必要もあります。

 また、安全衛生については、設計施工運用において、とても重要な課題であることは間違いありませんが、日本ではBIMに結びついた活動はあまりありません。これをどのように結びつけるのかを考えてゆかねばなりません。大変な作業ではありますが、これがなかなか楽しい。それがオタクというものなのでしょうね。


ISO19650-6の表紙



 さて、環境シミュレーションの阪田社長も、日本を代表するCFDオタクだと思っています。数値流体力学(CFD)への深い愛と知識を、技術開発・教育・実務にわたり存分に発揮されており、CFDを用いた建築環境(室内外の換気・温熱・風環境)に特化した解析を数千件以上こなし、業界内で高い専門性を発揮されています。

 また、学会・論文執筆での研究活動も多くされており、TVのニュースなどで、火災や津波のシミュレーションなどの協力も積極的にされており、自ら開発した「3次元熱流体解析(CFD)ソフトWindPerfect/e-flow」を販売し、受託解析も行っておられます。


環境シミュレーション社の阪田社長



 ということで、私も、牧野富太郎さんのように、生涯BIMの探求を続けたいものです。まだまだBIMは発展途上であり、新しい概念や取り組みが今後も増えてゆくだろうと思うからです。生きているうちに、「BIMはやり尽くし、日本のBIMで、建設業界の業務改革を為しえた」といえるようなっていたいものです。

 このように、オタクが社会を変えてゆくのです。もし、BIMオタクを目指したいという方がおられたら、私にご連絡下さい。一緒にBIMオタク道を極めましょう。