第3回 Build Live Tokyo 2009

 元年とは、画期的な出発点となるべき一年目のことを言います。日本のBIM元年は2009年だと言われているが、果たしてそうでしょうか?確かに、それまであまり知られていなかったBIMという言葉が、建設業界の新たな動きとして使われるようになったという点では、そうかもしれません。確かに、BIMによる様々な技術が紹介され、その可能性に胸を躍らせた時期だとは言えます。

 その2009年に、Build Live Tokyo 2009というイベントに参加しました。これはBIMの可能性を知る意味で、私にとってもとても印象深いイベントでした。今回はこのイベントを振り返ってみながらBIM元年について考えてみたいと思います。

Team BOMbとして参加したBuild Live Toyo 2009
Team BOMbとして参加したBuild Live Tokyo 2009

 これは、BIMを用いた仮想の設計コンペのようなものです。このコンペの内容は、「豊洲エリアに設定した仮想敷地に敷地1万m2、延床3万m2の環境技術研究センターを2日間(48時間)で設計を完了させること。」でした。

 当時、海外でもよく実施されていたイベントを、日本IAI(現BSJ)が日本でも開催したというものです。2日間で、この規模の建物を、設計し、解析し、プレゼンを行うといった過酷なイベントでしたが、まさに、BIM元年にふさわしいイベントだったと言えます。

 当時Revitユーザーグループの会長だった私は、有志を集め「Team BOMb」として参加し、2日間でその当時できるすべての技術を動員した取り組みを実施しました。19団体36名が各拠点で作業を行い、バズソーというクラウドサーバーでデータをやり取りし、今では当たり前になっているテレワークのような仕組みを使って2日間の作業を行いました。

 設計を誰にやって頂くのか悩んでいたちころ、環境シミュレーションの阪田様にシーラカンスの小嶋先生をご紹介いただきました。小嶋先生には後日、RUGのセミナーでもご講演頂きましたが、その話は別にする予定です。シーラカンスからは2名スタッフを出していただき、設計を担当して頂きました。
 
 BIMソフトで作りやすいような建物の形状にするよう考慮して頂けるという事で、どんなデザインになるかなと楽しみにしていたら、当時の我々にとっては建物の形状が複雑で、Revitによるモデリングは、厳しいものになりました。

 意匠設計のモデリング作業の、美保テクノスには、短い時間でこれをモデリングして頂きました。このモデルをベースに、構造・設備そして、環境解析・プレゼンテーションなどを、48時間でやり切りました。

 環境シミュレーションの阪田さんにも、外部風解析・建物の換気解析・室内の温熱解析をやって頂きました。この規模の解析をほとんど一晩でやり切るというのにも、驚きでした。

環境シミュレーション様による外部風解析
環境シミュレーション様による外部風解析

 ここで、我々の「チーム the BOMb」は、ベストコラボレーションという賞を頂き、「BIMによる設計プロセスの提示」と、「BIMによるシミュレーションの活用」という面で評価を頂きました。下記が我々のチームのその当時の評価です。

1.BIMによる設計プロセスの提示
(1) 手書きスケッチのデザインコンセプトを経てマスモデルの作成、意匠モデル、構造モデル、設備モデル、各種シミュレーションを市販のBIMツールを組み合わせて、BIMのプロセスを見せてくれた。
(2) BIM2.0を目指した幅広い作業を、19団体、36名という大人数で行っている。分散した場所で、意匠・構造・設備モデリング、解析・シミュレーション、プレゼンテーションデータ作成等、多くのBIM成果物を出した。BIMを前提とした作業スケジュール、リソースの確保等、全体を統括するBIMマネージャー機能の重要性を示した。

2.BIMによるシミュレーションの活用
(1) Revit User Groupで追及しているBIMツール連携(風環境、日射、照明、構造、熱負荷、CO2等)の実践的な活用手法を実証した。
(2) デザインコンセプトで設定した、海風を通す塔のイメージの建物というテーマを実現させるため、風環境シミュレーションを活用して実現性を検証しており、実用的なBIM2.0プロセスの一例といえる。

 BIMによる設計プロセスの提示という評価において、私が「BIMマネージャー」という役割を果たしたと評価して頂きました。確かに、この2日間でこの作業を終わらせるために、参加人数や参加者の能力や特徴に合わせ、事前に綿密な計画を立て、進行状況を把握し、状況に応じて適切な指示を出すという役割を担っていましたので、最初は意識をしていませんでしたが、確かに私は「BIMマネージャー」という役割でした。

BLT2009でのTeamBombのスケジュール表
BLT2009でのTeamBombのスケジュール表

 今にして思えば、その当時からBIMプロセスの重要性に着目そていたのだと思います。これが、2020年に出会った、ISO19650の「情報マネジメントプロセス」に繋がっていると思います。

 BIMによるシミュレーションの活用という面では、2009年以降数年間、とても注目を集めました。BIMによってこれまで難しいとされていた、CFDなどのシミュレーションが誰でも簡単にできると思われたからだと思います。しかし、それは長くは続きませんでした。BIMモデルの活用は簡単にできても、解析条件の設定や、解析後の分析などの専門知識は、一朝一夕には作れるものではないと思われたのではないでしょうか?

 しかし、環境シミュレーションでも、Revitとのダイレクト連携ができるなど、さらに連携の敷居は低くなっています。設計にシミュレーション技術を取り入れるということを、再度検討する時期に来ているのではないかと思います。

BLT2009でのCFDによる換気解析
BLT2009でのCFDによる換気解析

 このように私にとっても一つのきかっけとなった2009年ですが、その後のBIMの普及に繋がっているとは言えません。RevitなどのBIMソフトは徐々に浸透してはいますが、12年経った今でも、2次元CADを中心に仕事を行い、BIMソフトを補助的に使う企業がほとんどではないかと思います。

 これは、2次元CADで行っていた仕事の中で、徐々にBIMソフトを使ってゆくという切り替えを進めてきたという経緯によるものです。プロセスは、2次元CADと大きくは変わっていません。手法が変わるだけでは、真にBIMのメリットを得ることはできません。BIMによるプロセス改革を実現する事で、フロントローディングなどの、BIMのメリットを得ることができます。

 2020年に、国土交通省の主催する建築BIM推進会議が、「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第1版)」を出しています。これは、このプロセスに着目したものだと思えます。

 勝手ながら、私の解釈で、2009年は「BIMツール元年」、2020年は「BIMプロセス元年」としたいと思います。この「BIMプロセス元年」こそが、日本の建設業界に新たな時代を創っていくのではないかと思います。