第2回 能力と容量

 ISO19650に能力と容量(capability and capacity)という言葉が出てきます。何を言っているのかというと、請け負った仕事の情報の生産(設計とか施工)を行うための、担当者の能力と担当者の人数が十分足りているかを、応札時点で建物の発注者に報告しなさいというものです。

 日本でもBIM実施物件は増えてきていると思います。しかし、実際にBIMで情報を生産する担当者の能力と容量を、建物の発注者がチェックをするという話は聞いたことがありません。また、最終的な成果物としてBIMモデルを納品するということもあまり行われていないので、実際のところ、BIMによる作業をどこまで行ったのかを確認されることはありません。

 そもそも、設計者に求められるBIMの能力とは何でしょうか?これは、情報を作れる能力・情報を共通データ環境で管理できる能力・共通データ環境内のデータをレビューやチェックができる能力ということです。つまり、情報を生産する担当者は、RevitなどのBIMソフトとBIM360などの共通データ環境(CDE)を使いこなせる状態になっていなければなりません。それがどの程度使えるかを数値化するために、習熟度調査などを行い、習熟度レベルを調べる必要があります。

 日本には、それらができる設計担当者がどの程度いるのでしょうか?実は、日本では、設計担当者がBIMソフトを使って設計を自ら行うということが、あまり多くないといった実情があります。2次元CADにおいても、設計者は設計が仕事、製図はCADスタッフに任せればよいというような考え方があります。

 ずいぶん前に、大手設計事務所の方に、「BIMの導入は簡単だよ」と言われたことがあります。「どうしてですか?」と聞くと、「派遣社員や協力会社に徹底的に覚えてもらえばいいだけですよ」と言われました。この考え方は、根本的に間違っています。2次元CADは、製図ツールかもしれません。ところがRevitなどのBIMソフトは製図ツールではなく、設計ツールなのです。もちろん、すべての設計情報の作成を自ら作成する時間はないかもしれませんが、基本的な操作などを習得したうえで、指示を出す必要があります。

 実は、BIMの派遣社員や協力業者の皆さんは困っています。「設計者の指示でRevitを使ってモデル作成をしているのだけれども、根本的に設計者はRevitをまったく知らないので、すべて2次元ベースのPDFで山ほど赤ペンチェックが来るし、納品は2次元データが主で、Revitのデータを使っているように思えません」とか、「線1本、文字修正ひとつできないので、それらすべてが修正依頼され、いつまでたっても仕事が終わりません」など。「依頼していただいているお客様には言えないですが、これでBIMと言えるのですか?」というような嘆きです。一生懸命作ったBIMデータが、単に2次元CADデータの作成の道具しかなっていないということなら、そもそも2次元CADで設計した方がよっぽどいいのではないかと思えます。

 このような状況にある場合であるにもかかわらず、BIMを実施するのには、費用がかかるので、設計報酬を上げてもらわないと困る、というような論議をされます。もちろん、BIMの導入費用やBIM標準や共通データ環境の構築、教育や運営体制の構築などに、コストはかかるでしょう。ただ、それを設計報酬としてお客様に費用負担してもらうのは少し違うと思うのです。むしろ、このように正しく BIMの導入ができる企業であれば、設計・施工のコストや期間が短くなるはずであり、それらは海外で何度も報告されています。

 話を少し戻します。発注者から設計事務所やゼネコンにプロジェクトメンバーの能力・容量の提出を要求された場合、設計および設計情報モデルの納品に責任を持つべき設計担当者の能力・容量をどのように書かれるのでしょうか?優秀な協力会社があれば、BIMのデータ作成に問題がないかもしれません。しかし、そのBIMのデータを正しく活用できる設計者の役割というのが、できていないことが多いので、そこをどう書くかが難しいでしょう。BIMプロジェクトの情報生産におけるすべてのメンバーの役割、これがしっかり機能していることが重要です。

 日本では、「BIMで仕事をする」という言葉がとても曖昧です。2次元で仕事をして、最後にRevitで3次元のモデルを作るという「後追いBIM」が実は日本の主流であり、BIMで仕事をするための能力・容量が足りていません。そして、業務のプロセス改革といった取り組みにはいつまでたっても着手できていないというのが現実です。

 今回はISO19650に書かれている能力と容量についてお話ししました。それだけではなく、ISO19650に書かれている「BIMによる情報マネジメントプロセス」をきちんと知ったうえで、自らのBIMのプロセスを考え直してみたら如何かと思います。BIMによるプロセスの構築、それが、BIMがお荷物になるのか、価値を生むのかという境目だと思います。

ISO19650

 株式会社BIMプロセスイノベーションとしては、まずそれを皆さんに伝えるところから始めたいと思います。