第13回 BIMの次元

 前職で大阪に3年半単身赴任したことがあります。「Autodesk Revitトレーニングガイド」はその単身赴任中に執筆したものです。会社は梅田にありましたが、住んでいたところが玉造で、その途中に天満という町があります。天満は低層の建物が密集していて、ごちゃごちゃした路地が沢山ある活気のある町で、まさに大阪というイメージだと思える好きな町です。コロナの影響もあり、しばらく大阪に行っていなかったので、行ってみたいなと思っていたところ、天満に詳しいという方と一緒に行こうという話で盛り上がり、2022年の年末に、やっと行くことができました。

 天満も以前の活気を取り戻していて、往来も多く、どの店にも多くの客が入っているようでした。その2次会に、その方が20年通っているという素敵なバーに連れて行ってもらいました。カウンターだけで10人ぐらいで満席となるような小さなバーでしたが、とても居心地のいいバーでした。シャキシャキとした素敵なママが一人で切り盛りしていて、その個性に引かれて常連客が通うような雰囲気のお店です。

 そのバーのママが私に何の仕事をしているのかという質問をされました。私は、BIMに関するコンサルをしていると答え、BIMというのは、「パソコンを使って3次元で建物のモデルを作って、そこに情報を与え、プロセスを作るというものです」と答えました。さらに、BIMには4次元も5次元もあり、実は10次元まであるのです。みたいな話をしたのだと思います。

 その時は、なるほどねという感じだったのです。業界ではない方には、もう少し?み砕いた言い方をした方がよかったかなぁと思いました。しかし、そのお店に連れて行ってもらった方から、メールで、「あのバーのママが先日の伊藤さんの話がおもしろかったから、もう一度来てもらって続きを話してくれないか」という連絡が来ました。

 そのママは実は音楽家で建築とかに関係した仕事をしていたわけではないと聞いていたので、少し驚きました。BIMという言葉を初めて聞いた方で、そのBIMの次元に興味を持つような方は、いないと思っていたからです。建築業界でBIMを担当されている方の中でも、BIMの次元は5次元ぐらいまでしか知らないのではないでしょうか?日本で10次元まで言える人はほんの一握りだと思います。面白そうなので、とにかく行ってみよう思い、年が明けて1月に大阪出張の機会に、連絡を頂いた方と一緒にもう一度行ってきました。

 バーのママは、本当に興味を持っていて、5次元以降の話が気になって仕方がなかったということで、私が来たことをとても喜んでくれました。私は順番に5次元以降の話をして、ママだけでなく、そのお店の常連客である2人の方と共にその話で盛り上がったのです。ちなみに、その常連客の方も建築関係ではなく、公認会計士とコンピュータ関係の技術者ということで、業界の方ではありません。こういった感じでBIMの輪が広がってゆくといいなと思いました。BIMは設計・施工での情報作成の段階から、竣工後の運用の段階になってゆきます。その段階では、社内の基幹システムと繋がることになり、異なる業界の方々と共に創ってゆく時代が来る可能性もあるのだと思います。

 実はBIMの次元という考え方はとても重要な考え方です。BIMの可能性を広げたり、成長度合いを測ったりできるような物差でもあると思うのです。

 日本では、BIMモデルの利用方法は3次元に留まっています。4次元は時間軸ですが、このBIMモデルと時間軸が繋がっていないので活用は進んでいません。5次元以降も、進んでいるとはいえません。BIMによるメリットを出してゆくためにも、これらに挑戦し続けることは必要です。

 皆さんはBIMの次元をどこまで知っておられますか?業界の方でも6~8次元を知っておられる方は多くありません。9~10次元については、聞いたことがないという方が多いのではないでしょうか?このBIMの次元については、正式に何らかの規格で定まっているものではなさそうですが、海外のWEBを検索すると10次元まであるようです。

 一般的には4次元までの様です。0次元が点、1次元が線、2次元が面、3次元が空間、4次元が時間です。次元には物事を考えたり行ったりするときの程度や水準を表すという意味があり、BIMの10次元も、BIMの程度や水準を表しているものだと言えます。

 私なりの解釈で作成したBIMの次元の概念図を示します。BIMモデルやBIMプロセスに、時間やコストなどの情報を関連付けることによって、BIMに新しい可能性という次元を拓くものです。下図はBIMの次元としての8つの方向性と、それらの達成度合いを示す概念図という意味で作成したものです。
  

BIMの次元


 それでは私なりの解釈のBIM10次元を簡単に説明します。

3次元 空間
 BIMとは、モデルの形状と属性を活用して共通データ環境による協働作業で設計・施工を行うプロセスです。ここで作成される3次元のモデルを活用することが3次元BIMです。例えば、干渉チェックや納まりの検討、ウォークスルーやVRなどによる建物空間の確認や色決めなどの活用などが考えられます。

4次元 時間
 4次元は時間です。施工においては、時間管理が重要です。工程表では、それぞれの部位の施工の時期を示すもので、すべての工事で作成しています。時間とは、施工においては、その部位の施工開始時期や施工完了時期、運用段階においては、メンテナンスや修理などの時期などが考えらえます。BIMのモデルにこれらの時間の情報が加えられれば、施工ステップ図の作成が工程表と結びついた形で行われるようになります。

5次元 コスト
 5次元はコストです。しかし直接BIMモデルから金額を出すわけではありません。BIMモデルからは、コストを算出するための数量を算出し、これと繋がるコスト算出システムと連携することで、金額を算出するという考え方だと思います。

6次元 サステナビリティ
 6次元はサステナビリティです。つまり環境に配慮し持続可能な建物を作ることにBIMの技術を活用するということです。これにはエネルギー管理の観点と、CO2削減など環境問題の観点があります。BIMは省エネルギーの建物を作ったり、製造段階のCO2排出量を押さえたり、運用段階でエネルギー使用量を見える化したり、様々な場面で活用できると思います。

7次元 施設の運用・管理
 7次元は施設管理です。竣工後のライフサイクル全体にわたる保守作業の計画と管理のことです。しかし、ISO19650-3は運用段階の情報マネジメントプロセスについての規格で、保守作業だけではなく、運用におけるアセットマネジメントの観点も加えられているようです。設計・施工で作成されたBIMの情報を竣工後の運用段階の情報マネジメントでも活用しなければなりません。

8次元 安全
 8次元は安全です。私は、この安全というのは、施工時の安全と、竣工後の運用段階の安全の両方を指すと考えています。基本的にはBIMモデルを活用しながら考えられるリスクをすべて予測し、その対策を立てるというものです。これには施工する前に現場を視覚化することにより、リスクを把握し、BIMモデルや、ARやVRシステムによって対策を打つことができます。PAS1192‐6がこの内容です。8次元については、日本ではまだあまり取り組みがなされていません。

9次元 無駄のない建設
 9次元はリーンコンストラクションと言われていますが、私は建設プロセス全体のデジタル化を通じてプロジェクトの実施に関連するすべてのステップを最適化および合理化する、無駄のない建設だと考えています。また建材・人材・機材などの資源の効率的な管理・運用も含まれます。建設業界には、意思決定の遅延などからくる設計変更や、古いプロセスのままBIMソフトを活用することによる効率の低下などが起きています。ISO19650が目指す「情報の統合およびデジタル化」がここに繋がると考えられます。

10次元 建設の工業化
 10次元は、私は、建設の工業化であり、DfMAだと考えています。DfMAとは、できるだけ多くの部材をオフサイトの工場で製造し、現場ではそれを組み立てるというプレファブの技術です。プレファブは日本でも昔から取り組んでいますが、ここにBIMという技術が入ることで、海外では工期短縮・コスト削減が実現できる技術として、急速に取り組みが進んでいます。

11次元 建設DX
 BIMの11次元なんて、誰も口にしてはいませんが、私の考えで付け加えておきます。11次元はBIMの情報を活用した建設DXです。これは建設業界のためのDXという意味ではなく、他産業への連携を意味したDXのことです。つまり、施設の建設と運用という情報を活用することで生まれる新しいビジネスモデルによる産業革命のようなものだと思っています。建設情報は建設のためだけに使っているのは勿体ないことです。これが業界を越えて活用できるようになって初めて、デジタルウェルビーイングが実現するのだと思います。

 日本でのBIMの遅れはこれらBIMの次元への対応の遅れでもあります。これらの次元が技術的に確立され、実務で活用できるようになった時に、BIMの可能性は計り知れないほど大きなものになるので、こういった観点でBIMを考えてみるのもよいことだと思います。

 調子に乗って、11次元を作りましたので、次回天満のバーに行った時にお話ししたいと思います。このバーは、日本一おいしいギネスビールが呑めます。これはママが日本一おいしいギネスが?みたかったからという理由だそうです。そういったこだわりがいろいろあるところが私のツボだったりします(笑)

  こういった場所が増えて、業界を越えてBIMの話ができる場所ができるといいですね。次回大阪に行ったら、また寄らせてもらおうと考えています。