第12回 言葉の壁を越えよう

 2018年にオランダ・イギリスにBIM視察に行きました。その時、オートデスクのスティーブン・バトラーという方に、案内役として、視察にまわるオランダやイギリスの企業をアテンドして頂きました。1週間近く彼と一緒にいましたが、話すことができないので、何の交流もできませんでした。ヨーロッパでのBIMの様々な知識を持っている方が隣にいると思うのに、直接聞けないということが、とてももどかしく思いました。

 そこで、帰国して、英語に挑戦しようと思いました。過去に中国語に挑戦して、結局習得できなかったので、語学には向かないと思っていましたが、今後の仕事に必要になるから、そんなことは言っていられないと思いました。そこで、英会話教室を探すことにしました。大手の英会話教室も選択肢にありましたが、なんとなく直感で近くにあるJabbleという英会話教室でレッスン体験をしてみることにしました。

 このレッスン体験が面白かったので、これも縁だと思い一度やってみようと思いました。グループレッスンではなくやるなら費用も高いのですが、マンツーマンがいいと思っていました。かみさんに相談すると、「無駄な投資をしたくないから、やめないならお金を出すよ。だけどやめたら全額返してね。」というとても暖かいお言葉です。やめるつもりで入るものはいないでしょう。でも、三日坊主で終わらないようにと心に決めてレッスンを始めてみることにしました。
  

今年のハロウィンでのジャブルの先生との写真 (英会話のジャブル https://jabble.jp/)

 最初になぜ英会話を勉強しようと思ったかを聞かれました。そこで、私は、イギリスにスティーブという方がいて、BIMについて彼と会話したいから、英会話を学ぶのだと言いました。3人くらいの先生がいましたが、おかげで全員スティーブとBIMについて、みんなが知っている共通の話題となりました。

 59歳でほとんど英語ができない状態で始めましたが、すでに4年になり、毎月4回通っています。レッスン内容は、雑談です。どこに旅行したとか、こんな写真を撮ったとか、身近な話題を話すだけです。

 私が話した適当な英語の文章を、正しい文章はこうなると指摘してくれた上で、そこから重要なフレーズをピックアップして、例文を作りながら繰り返し話してみます。教科書はなく、ただ雑談しているだけだが、とても楽しいのです。ただ、文法とか体系的に学ぶには、このやり方だけでは足りないと思ったので、NHKのラジオ英会話も聞くようになりました。そして、ちょっとだけでも、わかるようになると、さらに楽しくなってきました。

 でも、上達したのかと言われると、実は、全然ダメです。映画の英語なんてさっぱりわかりません。今年ニューオーリンズで開催されたオートデスクユニバーシティのセミナーも、聞き取りが追い付かず、資料を参考にこんなことを言っているんだなぁという程度でした。だから、開き直って、私の英会話学習は、上達を目的にするのではなく、英会話学習そのものが趣味なのだということにしています。学ぶことが趣味ならば、上達しなくても自分に腹が立たないからです。こうしているうちに、いつか会話ができるようになればいいなぁなんて思っています。

 2019年に、アメリカのラスベガスで開催されたオートデスクユニバーシティ2019で応急仮設住宅の自動配置について英語で発表しました。2009年頃初めてオートデスクユニバーシティに行ってから、いつかはここで発表したいという思いがあったから、自分なりに頑張りましたが、これは結構大変でした。オートデスクのTさんに英語を指導して頂き、Jabbleでも発音をチェックしてもらったり、できることは何でもやりました。カナダに6年いて英語が堪能なKさんにも一部発表してもらったり質問に対応してもらったりして、なんとか満席の会場をほとんど途中退席もなく、話を終えることができました。

 ただ話をするだけでなく、笑いを取れたのが一番うれしく思いました。さらに、後であなたの話が面白かったからと、わざわざ会いに来てくれた人もいたので、大変だけどやってよかったと本当に思いました。そして、もっと英語を勉強しなければとも思いました。
  

Autodesk University 2019 での発表の様子

 前職を辞めた後、BIMコンサルタントの仕事を開始するまで少し時間があったので、ISO19650の規格に関する資料や、その他の規格などの英語の資料を、グーグル翻訳などをして、自分なりにBIMに向き合いました。英語の文献には、言葉の壁があり、これまでじっくり読んでいなかったですが、日本でも通用するとっても重要なことがたくさん書いてあることが分かりました。これが、私にとっては、前回お話しした、BIMの経典というものです。

 さて、話は変わりますが、先日CADネットワークさんのAutodesk Revit MEPの2日間の研修を受けてきました。初日は基本操作と諸元表の作成、二日目は機器のプロットと配管と言うものです。設備設計というものは、あまり知識がないのですが、Revitについてはわかるので、なるほどこうやって設備設計をやっているのかと、とても良くわかりましたし、楽しかったです。

 設計における意匠・構造・設備はそれぞれの役割をもって作業を行っています。ところがこれまで、違うソフトを使って作業を行っていました。それはまるで言葉の壁と同じようなものだと思うのです。それが、意匠・構造・設備ともにRevitで作業を行うことができるなら、まさにこれがBIMにおける共通言語となり、言葉の壁を越えるということなのではないかと思いました。Revit MEPを設備設計の実務で活用するというのは、前職での私のミッションだと思い取り組みを行いましたが、在職時はそれが叶いませんでした。それは自らが設備のことが分からず担当者任せになったことが原因だと思います。

 そのRevit MEPが実務活用できるようになったのは、RUG(Revit User Group)の成果です。私は初代のRUGの会長ですが、同じように昔、意匠設計で実務活用するために取り組んで来た時のことを思い出します。RUGのテンプレートやファミリには設備設計に必要となるさまざまな工夫がされています。やっと設備もRevitの時代が来たように思います。

 三位一体(さんみいったい)という言葉があります。これは、「三つのものがひとつになること。三者が心を合わせること。」という意味です。建物は、意匠・構造・設備をバラバラに作るわけではありません。三つはひとつの建物の構成要素です。人で例えて言うなら、構造は骨・骨格、設備は血管とか内臓、意匠は筋肉とかからだ自体だと思います。それらがちゃんと機能するのが建物です。やっとRevitでそれらの機能が揃ってきたというのが、とてもうれしいことです。
  

三位一体の建物の構成

 これは意匠・構造・設備の言葉の壁を越えることだと思います。設備がRevitでなければ、そのデータ自体をもらってもネイティブデータを直接見てみようとは思いません。IFCなどのデータで形状を確認するという程度になります。例えば、ユニットバスとか便器・洗面器など、意匠と設備の両方に存在する可能性のあるモデルがあります。これはそれぞれのモデル・図面作成には必要なものです。しかし、統合モデルの上では、それぞれ2つのモデルが存在してしまいます。これは数量算出や管理の面などいろんな点で具合がよくありません。

 意匠・構造だけでなく設備までRevitという同じソフトで対応できるようになること、これは、設計・施工の業務においても劇的な変化が生まれてくると思います。仕事の垣根や領域すら変わってくる可能性があるのです。

 言葉というのは歴史や文化にもつながってくるので、統一するのは難しいでしょう。だから、言葉は学び乗り越えなければなりません。しかし、BIMソフトウェアは、まだまだ発展の余地があるので、ここで意匠・構造・設備が統一することは可能だと思っています。むしろ、そこを一つの起点として、大きな成果を目指すことができるでしょう。

 RevitMEP、この進化と普及を今後、楽しみにしてゆきたいと思います。