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津波避難ビルや街区への津波荷重をシミュレーション -BIMにも対応した流体解析ソフト「e-flow DX」

BIMにも対応した流体解析ソフト「e-flowDX」(取材:建設ITワールド 家入 龍太氏)

東日本大震災では、これまでの想定をはるかに上回る巨大津波で多くの建物が破壊されました。その教訓から津波による外力を想定した建物や土木構造物、そして工場や発電プラントなどの設計が求められています。独立行政法人 建築研究所と環境シミュレーションは、流体解析ソフト「e-flowDX」を活用し、世界でも珍しい建物や構造物に作用する津波荷重のシミュレーション技術を開発してきました。

津波荷重のシミュレーションに流体解析を適用

一口に津波と言っても、いろいろなタイプがあります。海面が少しずつ上昇し堤防を越えた津波が巨大な川のように流れる「越流タイプ」、ほぼ垂直に切り立った海水が壁のようになってやってくる「段波タイプ」、さらに波の先端が進行方向に向かって崩れながら進む「斜流タイプ」があります。
 「建物に津波がぶつかると、水平方向の衝撃力のほか建物周辺の水位上昇による水圧や、数十mの高さに跳ね上げられた海水が落下することによる鉛直方向の衝撃力が作用します。例えば20mの高さから落下してきた海水の塊がどんな破壊力を持つのか想像してください。さらには建物には津波によって浮力や、内部に入り込んだ海水による圧力も生じます」と、環境シミュレーション代表取締役の阪田升氏は説明します。


流体解析ソフト「e-flowDX」の画面を示しながら
建物に作用する津波荷重を説明する環境シミュレーションの阪田升代表取締役

これまで行われてきた津波の研究は、外洋で発生した津波がどのような波高で、どの範囲まで及ぶかという問題を扱ったものがほとんどでした。2005年から、環境シミュレーションは独立行政法人建築研究所と共同で、建物に複雑に作用する波圧や荷重、津波の流れなどの3次元分布を予測し、建物の水平耐力や転倒モーメントを時刻歴で解析するため、同社の流体解析ソフト「e-flowDX」を使って、2007年から建築研究所と共同で津波荷重のシミュレーションを行っています。
 建物や街区レベルの津波数値解析は、世界的に見てもほとんど皆無でしたが、東日本大震災による津波の被害によってクローズアップされています。
 津波荷重を正確にシミュレーションできると、津波の荷重に耐えられる建物の設計や、津波に有効に働く建物や街区のレイアウト、引き波や浮遊物に対する対策などを、様々な条件で検討することが可能になるからです。


環境シミュレーションの流体解析ソフト 「e-flowDX」 で解析した津波の挙動

実際の津波避難ビルに基づいて解析

建築研究所の奥田泰雄氏と阪田氏は、2007年から2009年まで3年連続で「建築物に作用する津波のシミュレーション」と題する論文を日本建築学会で発表しています。
 これらの論文で解析の対象となったのは、高知県に実在する小学校のRC造3階建て校舎です。幅約50m、奥行き約10m、高さ約12mで、窓ガラスの部分を開口としたモデルと、窓ガラスのない閉鎖モデルの2種類で解析しました。このモデルに 「段波」 状の津波が作用したときの津波力や圧力、流れなどを数値シミュレーションによって解析したのです。


解析対象とした小学校の校舎

2007年に発表で明らかになったのは、津波が建物に衝突した瞬間の1.8秒前後に、建物には大きな荷重が作用することや、開口部があると建物に作用する津波の波高や圧力が軽減されることでした。このとき、津波による建物内部の圧力分布も計算しました。


高さ2mの津波(段波)が建物に衝突したときの津波の流れ(上段)と建物表面の圧力分布(下段)。
窓開口部がある場合(右側)は波高、圧力とも軽減されていることが分かった

開口部がないとき(左)に比べて、開口部があるとき(右)は津波力が軽減されることが分かった。


建築物表面の流れ分布。 開口率44%の場合

また、2009年には津波が複数の波に分裂する「ソリトン」による津波力への影響を解析。 流体解析による津波力の解析技術は年々、進化しています。

津波解析に向いた流体解析ソフト 「e-flowDX」

津波荷重の解析に使用している流体解析ソフトは、環境シミュレーションが開発した「e-flowDX」です。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のモデルデータを基に、建物の風通しや空調、日射による熱などを解析するのに用いられている熱流体解析ソフト 「WindPerfectDX」の姉妹ソフトに当たります。
 海水と空気からなる「2相流」の特性を持った津波の動きを扱える「自由表面問題」や、津波の中を移動する浮遊物などを扱える「移動境界問題」に対応した機能を持っています。
 もともと「e-flowDX」は、海面上を移動する船舶が作り出す波による抵抗や、空気中をカーブしながら走行するクルマに作用する気流、鋳型の中を広がって進む鋳鉄の動きなどを解析するソフトでした。 津波の解析にはこれらの問題と共通する「2相流」の要素があるのです。
 激しい勢いで移動する津波の挙動を解析するのは、簡単なことではありません。2相流と言っても、海水と空気と境界がきれいに分かれているわけではなく、「空気混じりの海水」という複雑な領域があるからです。
 この領域を表現するために「VOF法」という方法があり、今回の津波シミュレーションで活用しています。e-flowDXでは、VOF法による表面トラッキングを行うことで自由表面流を解析できるようになっています。


某発電プラントの津波荷重シミュレーション例。断面の流速ベクトルと
建物表面に作用する圧力、波形に相当するVOF等値面を表示したもの

東日本大震災後に求められる津波避難ビル

「津波が起こったら、高台に避難する」というのが鉄則ですが、高台のない平野部では、鉄筋コンクリート造などの堅固な中高層建物を「津波避難ビル」として利用されてきました。しかし、東日本大震災で発生した巨大津波によって、津波避難ビルに求められる機能は変わってきました。
 「震災前は個々の建物に作用する津波の静水圧をシミュレーションによって求め、構造安定性の検討が行われてきました。震災後は、これまで想定されていた津波の高さをはるかに上回る波高を持つ「高波高」津波への対策が求められています」と阪田氏は指摘します。


東日本大震災では多くの建物が津波で破壊され、高波高津波への対策が求められている

そのため、個々の建物だけでなく街並み全体によって津波の荷重に対抗することや、防波堤の効果を考慮することなどを含んだ総合的で現実的な津波対策が求められています。

e-flowDX を活用し、受託解析サービスを提供

e-flowDXは姉妹ソフトのWindPerfectDXと同様に、建物のBIMモデルの形状を3次元DXF形式に書き出して、取り込むことにより、津波荷重の解析を行うことが可能です。BIMと連携することで、複雑な形状の建物や、複数の建物や構造物からなる街区の津波解析も効率的に行えます。


姉妹ソフトWindPerfectDXと同様に、BIMモデルに基づく津波解析も可能だ

「ただし津波のような複雑な問題を解析するときは、同じソフトを使えば誰でも同じ結果が得られるというものではなく、解析のノウハウも必要です。環境シミュレーションでは、e-flowDXを使った数値シミュレーション結果を、大規模実験水路による津波の実験結果などによって検証し、高度な解析技術を蓄積し、受託解析サービスを提供しています」と阪田氏は説明します。
 今回の東日本大震災の津波では、建物に作用する浮力や船舶やクルマなどの浮遊物による破壊現象、津波が海に戻るときの「引き波」対策の必要性も、新たな課題として浮上しました。環境シミュレーションでは、e-flowDXの機能拡張も同時に行っています。2011年には浮力や引き波、洗掘の解析機能、2012年には浮遊物の解析機能をそれぞれ追加する予定です。


     

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